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(2)
 子どもはこれから自分は大人になっていくのだから、自分はどうなるのだろうとそれは一所懸命に大人を観察している。その大人に魅力を感じれば、あんなふうになりたいと思 うかもしれない。ほんのちょっとチャーミングなところを認めて、ああ失敗しても、どじ(注1)ばかりでもいいんだと思えることもあるかもしれない。あるいは、僕はあんな大人にはな らないだろうけれど、あんなふうにするのもすてきだなと感じることもあるに違いない。とにかく子どもは、①そんなふうに常に大人を見ているのである。
(中略)
子どもはやがて大人になる。その大人に魅力がなかったら、それは自分に明日がないと言われているのと同じことだ。大人になってもつまらなそうだ、楽しいことがなさそうだ と感じたら、君の未来はこの程度のものだとつきつけられているのと変わらない。②これほ ど子どもにとって不幸なことはない
 大人はいつも子どもに見つめられている、子どもが自分を観察しているということを自覚していなければいけないと思う。わが身をつくろって、いいかっこするのではない。正 直に失敗するのなら、子どもより上手に失敗してみせよう、傷つくなら子どもより上手に傷ついてみせよう。人生の先輩としてというより、現役の子どもに対してベテランの子ど もとして、ベテランらしいところを見せてやろうじゃないか。そういう気概きがい(注2)の大人がたくさんいれば、子どもたちはきっと大人の世界に魅力を 見いだすに違いない。それが幸福な子どもの将来につながるのだと思う。
(大林宣彦『父の失恋 娘の結婚―べそっかきの幸福そうな顔』フレーベル館による)

(注1)どじ:うっかりした失敗
(注2)気概きがいの : ここでは、強い気持ちを持った