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ぼくはいつも思うのだが、視覚にとらえたものをただ単に描いても、決して絵画にはならない。視覚のかなた(注1) にかくされているものをとらえて、それを画面に定着させたとき、はじめて絵画が誕生する。絵画とは目の前の自然を心のなかに消化し、それをもう一度吐きだす作業によって生まれるのだ。 そうすることによってはじめて普遍的な(注2)美の世界が出現するのだと思う。だから芸術というものは、 理屈(注3)では解決できないものなのだ。理屈を超えたところに本当の美がある。(石本正『絵をかくよろこび』新潮社による)
(注1)かなた:向こう(注2)普遍的な:広くすべてのものに共通して見られる
(注3)理屈:論理的な説明