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「日本の消費者は世界一、目がえている(注1)」という言葉には2つの意味がある。第1は機能や味などへの要求水準が高いこと。第2には、 わずかな傷も許さないなど見た目へのこだわりだ。
 消費者は後者のこだわりを捨てつつある。それでは消費者は嫌々「傷物」に目を向け、我慢がまんして買っているのか。必ずしもそうではない。
 衣料品や家具などでは中古品市場や消費者同士の交換がさかんだ。再利用でごみが減り、環境にもいい。商品の傷も前の使用者のぬくもり(注2) とプラスにとらえる感性かんせい(注3)が若い人を中心に広がっている。
 規格きかく(注4)の農産物も似ている。ごみになるはずのものを安く使い、エコロジーと節約を両立りょうりつさせることに、 前向まえむきの価値を見いだしているのではないか。不ぞろいな野菜は、むしろ手作り品を思わせる長所。 消費者の新たな価値観に、企業がようやく追いついてきた
 市場が広がれば、粗悪そあく(注5)や不良品が出回る可能性も高まる。なぜ安いのか。本来の価値はそこなわれていないか。 企業の責任は重い。消費者にも「きびしい目」をきちんと持つことが求められる。
(日本経済新聞2009年8月27日付朝刊による)
(注1)目がえている:良いものを見慣れていて、物の価値が分かる
(注2)ぬくもり:あたたかい感じ
(注3)感性かんせい:感じ方
(注4)規格きかく:基準
(注5)粗悪そあく品:粗末そまつで質が悪いもの