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 私はどちらかといえば根が楽天的だが、昔は営業の強烈きょうれつなノルマ(注1)に苦しんだこともある。 そういう日々の中から①いつしか身につけたことのひとつが「幸せ感のハードル(注2)を低くする」だった。
 たとえば、あと一歩のところで契約けいやくが結べなかった日、会社に戻ってしょげかえる(注3)代わりに「あの社長と一時間も話せるところまできた」 と自分の成果を見つけて評価する。そうやって一日をめくくれば(注4)、明日への活力もいてきた。
 仕事そのものも、「仕事は趣味や遊びとはちがう。仕事はお金をもらうのだから、楽しくないことがあっても当たり前」と思ってやってきた。②そこ を基準にすれば、少々のことは当然のこととして受け入れられるし、何かいいことがあったときは「お金をもらいながらこんな気持ちを味わえるなんて」 と幸せ感も倍増ばいぞうする。
 どうせ人生の一定の時間を仕事についやすのなら、その時間が楽しいと思える方がいいに決まっている。それに楽しいと思ってすることは、 何かとスムーズに運び成果もあがるものだ。こうして好循環じゅんかんが生まれてくる。
 人は楽しいから笑顔になるのだが、「まず笑顔を作ると、それによって楽しい気持ちがいてくる」という研究結果があるという。 これにならえば、充実感を得られる仕事を手にするには、楽しめる仕事を探すのも大事だが、 小さなことでも楽しめるようになることも意外にあなどれない(注5)ポイントだ。
(高城幸司『上司につける薬!―マネジメント入門』講談社による)
(注1)強烈きょうれつなノルマ:厳しい条件で課される仕事
(注2)ハードル:ここでは、基準
(注3)しょげかえる:ひどくがっかりする
(注4)めくくる:終える
(注5)あなどれない:軽視できない