提供 日本語能力試験公式 ウェブサイト(https://www.jlpt.jp/)

(3)

 たとえば、「走る」ことは、一見単純でだれにでもできる運動ではあるが、「速く走る技術」となると、なかなか①身につけることが難しい。 教えられたように走るフォームを改善することが簡単ではないからだ。
 だれでもできる運動なのに、なぜその改善が難しいのだろう。
 実は、普段慣れている動作ほど、その動作に対する神経支配がしっかりとできあがっているからだ。運動の技術やフォームを改善することは、その運動を支配する神経回路かいろ(注1)を組 みかえることになるので、そう簡単にはいかない。  コーチは、腕のり、ひさの運び方、上体の前傾ぜんけいの取り方など、 フォームを矯正きょうせい(注2)しようと指導し、指導を受けるランナー(注3)も指摘された体の動きの修正に意識を向けてトレーニング するのが普通である。しかし、動作の修正には多くの時間とり返しが必要であり、またその効果が上がらないことも多い。そして、トレーニングの効果が上がらない人は、「運動神経」が 良くないということになる。  ②この場合、運動技術の修正は、「運動の神経回路かいろを修正する」ことであると考えることによって、解決の糸口(注4) がみつかる。
スポーツ技術や「身のこなし(注5)」の習得しゅうとくには、神経回路かいろに直接的に刺激を与えるようなトレーニング上の工夫が必要である。
 工夫をいろいろと重ねるうちに、「動作をイメージし、それを体感たいかんする」ことが、運動の神経回路かいろを改善するのにきわめて有効であることがわかってきた。
(小林寛道『運動神経の科学―だれでも足は速くなる』講談社による)
(注1)神経回路かいろ:ここでは、神経をつなぐ仕組み
(注2)矯正きょうせいする:正しくなるように直す
(注3)ランナー:走る人
(注4)糸口:きっかけ
(注5)身のこなし:体の動かし方