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 従来じゅうらい(注1)、旅行業にとって顧客こきゃく(注2)を喜ばせることは難しくなかった。自分の行ったことがないところに行きたい、 見たことがないものを見たい、食べたことのないものを食べたいとい うのが主なニーズであったし、長い休みの存在自体が旅行の動機になり得たからだ。だから参加者の多くは、そこに行って、そこそこ(注3)の観光ができれば、十分に満足した。旅行会 社は、価格をおさえるために人々を大量に効率こうりつ良く(注4)送客すればよかった。北海道や沖縄おきなわ、 グアムやハワイ、アジアのリゾート地……場所の魅力みりょくり返し伝えて刺激し続ければそれでよかった。
 しかし、そうして多くの人がさまざまな場所に出掛でかけるようになると、今度はただ行くだけでは満足しなくなる。目的が必要になる。行ってどうするのか、何ができるのかとい う目的が重要になる。(中略)
 この流れは現在も続いており、旅の動機づけとしては重要な視点となっている。ただ、残念ながらそういうことをマス(注5)としてとらえることが、価値観の多様化のなかで難しく なってきている。個々の目的を一つに束ねてマスの企画にすることが難しいのだ。ブームが発生しづらくなっている状況じょうきょうと原因は同じであろう。
(近藤康生『なぜ、人は旅に出るのか』ダイヤモンド社による)
(注1)従来じゅうらい: これまで
(注2)顧客こきゃく: 客
(注3)そこそこの: まあまあの
(注4)効率こうりつ良く: ここでは、経費や時間をかけずに
(注5)マス: 集団